最高の「しくじり先生」が書いた、渾身の一冊。
すでに「コロナ的なるもの」の到来を見越していた男。
与沢翼を知っていますか?
世間の感覚でいえば、かつての彼は「秒速で一億を稼ぐ男」としてメディアをにぎわせていたイメージでしょう。
でっぷりと太った童顔の成金。テレビカメラの前で湯水のごとく金を使い、その出どころは限りなく胡散臭い。
そんな彼が破産した時、メディアは当然のように面白おかしく取り上げたものです。
わたしも週刊誌で、「秒速で破産した男」といった見出しの、”ざまぁみろ”的な晒しもの記事を読んだおぼえがあります。
あれから何年経ったか、ここ数年でまたちらほらと彼の姿を見かけるようになりました。今回は雑誌やテレビというよりは、主にSNSでの露出が中心です。
見れば、なんと経済的には完全復活を遂げた模様。けれど、どことなく雰囲気が変わっています。ちょっと気になるなぁ。。と思っていた矢先に、書店でこの本を見つけました。
ダイエットを成功させたものの、表紙のコピーは相変わらずちょっと胡散臭い。
けれど、パラパラと数ページめくっただけでわたしはこの本を購入しようと決意しました。
なぜなら。
前書きと目次を見ただけで「これは、アフターコロナを迎えるための必読書となる。」という予感がしたからです。
この未曾有の危機を捉える彼の視点は、間違いなく「コロナ的なるもの」を予見して活動を始め、そして事実、見事に復活する方法を示していました。
コロナレベルの危機は、この先何度でも人生に襲いかかる。
では、ここで言う「コロナ的なるもの」とは何でしょう?
それは、今回のように根底から常識がくつがえされ、「この先も、ずっとこのまま」だと思っていた生活様式や、仕事、収入などがいきなり途絶する事態を指します。
与沢氏の場合は、派手に破産したことで「コロナ的なるもの」をまともに食らったというわけです。そしてその反省を元に、生まれ変わったような態度でふたたび成功をつかみ取ります。
そして今回の成功は、これまでとは性格がまったく異なっています。
文面からは以前のギラギラした雰囲気が消え、諦観ともいうべき穏やかさと揺るぎない安定感が漂っています。
わたし自身、コロナショックによってライター仕事に大打撃を受けました。まさに「コロナ的なるもの」への備えができていなかった典型といえます。
ですから、ここでは精神科勤務ならではの視点で、この本が「お金を稼ぐ本」だけでなく「心を守る本」としてもいかに優れているのか、その真価をご紹介できればと思います。
欲望で心が破綻したら、そこで終わり
与沢氏の総資産は現在、70億円を超えているといいます。その男が冒頭から警告するのは、高級車や腕時計、またはそれに類する贅沢品に入れ込むな、という内容。
果たして、充分すぎる資産を持つ同氏が、そんなことを気にする必要があるのでしょうか?
ここで彼が言わんとしているのは、「欲望の際限の無さ」についてです。
人間の欲望はブラックホールのようなもの。たとえばギャンブルで賭ける気になれば、目のくらむような70億円ですら一瞬で溶けてしまう可能性があるのです。
わたしも職業柄、さまざまな人生の転落の仕方を見てきました。
依存症の中でも、実は一番恐ろしいものがギャンブル依存だといわれています。
お酒をどれほど購入したとしても、個人で飲める額などたかが知れています。ところが、ギャンブルの掛け金に際限はないのです。
つまり、どれほどの資産家であっても、欲望に飲まれればあっという間に無一文に転落するというわけですね。
与沢氏は自分がとことんそういった経験をしたからこそ、「欲望のままに行動していけば、破綻するのはまずあなたの心です。」と看破します。
だからこそ、欲望のブラックホールには最初から近づくなと警告しているのです。
これは、依存症との正しい付き合い方からしても理にかなっています。あらゆる依存物質に飲み込まれない最善の方法は、「自分から近づかないこと」しかないからです。
その上で、お金を恋人と同じように大切に扱いなさい、と与沢氏は言います。
不要なものは一切買わず、お金を使う時は徹底的に悩み抜く。この姿勢こそが一番大事だというのです。
ピンチの時こそ強制的な「断捨離」を。
これが自然にできるためには、自分の人生にとって何が本当に大事なのか、わかっていなければなりません。
そのために与沢氏が提案するのが、強制的な断捨離です。
これまでの自分の行動を振り返り、痛みを感じる断捨離を行うことでしか再起の道は残されていない。これは本当に共感できる言葉ですね。
わたしもコロナショックの意味に気づいた時、自然と強制断捨離の行動を取っていました。
この時、これまで目を奪われてきたものが、急に色あせたのを覚えています。
経済が停滞する時、真っ先に価値を失うのは虚栄心を満たすものだと気づく。これって、実は滅多にない「無常観を体得するタイミング」だったわけですね。
「心を満たすための最低限度の支出」を知る
あなたにとって、メンタルを健やかに保つために必要なものってなんでしょうか?
与沢氏は、断捨離の結果として手に入れるべきものこそ「心を満たすための最低限度の支出」だと言います。
わたしの場合は以前も書いたとおり、長年夜勤の疲れを心地の良いスパで癒やしています。
お気に入りの場所が自粛期間で閉まっていた間は、本当にしんどい思いをしました。
つまりそれは、行きつけのスパがメンタルを回復する場所になっていたからなんですね。
他のあらゆる贅沢はカットしても、これさえあればメンタルの健康が保たれる。まずは自分にとってのそんな場所や行動について再確認したいものです。
では、何のために自分にとっての最低限度の支出について知る必要があるのか?
それは、お金を増やす軍資金をつくるためだと与沢氏は言います。
住宅ローンはマイナスでも精算し、車は所有するな。
学生や独身であれば、軍資金づくりのための貯金はさほど難しくありません。わたしも新卒で入社してから3年で600万円近くを貯め、世界放浪の軍資金にしたことがあります。
その間は会社の独身寮に住み、最初の半年はベッドに寝袋を敷いて寝るほど節約していましたがまったく苦になりませんでした。
ところが、結婚して小さな子どもがふたりいる今、ふつうの感覚で生活していてはいつまで経っても軍資金などできません。自分だけでは完結しない要素が多すぎるからですね。
与沢氏はそんな家庭人に対し、余裕を持って一括購入できるものだけを買い、すべてのローンは損失が出てもすぐさま解消しろといいます。
これは、まったくもってその通りだと感じます。一旦何かを所有すると、際限のない所有の雪だるまが転がり始めるからです。
わたしも、早々に住居は自由度の高い賃貸一択と決め、自家用車も所有していません。
その代わり、人気のある街で駅まで3分の賃貸マンションに住んでいます。そして、軍資金を貯める速度を早めるには、10万円以上かかるこの住居費も見直す必要があるな、と感じています。
期待しすぎることなかれ
「期待値の高すぎる人はすぐに破綻する。」
これは、わたし自身がメンタルを守るため、戒めにしなければならない言葉だと痛感します笑。
これまで、様々な試みをしてきたものの、期待値の高さが仇になったことは数しれず。
利益が期待できそうか、または見込みがありそうなものにしか手をつけてきませんでした。
その結果、思うような結果が出ないことで早々に撤退。
しばらくすると、また違うジャンルに手を出すことの繰り返しになっています。
つまり、期待しすぎることでかえって努力の継続を締めてしまっているわけです。
与沢氏の言う
「自分のすべての行動には期待していません。だからこそ、長続きします。
そのうえで継続さえしていれば、途中途中でコツが必ずつかめてきます。」
という言葉は、そうした人間にとって希望の光と言えますね。
このマインドを持ち続けることで、同じ失敗経験を繰り返さずに済むようになるからです。
「カンタンにはうまくいかないだろうけど、続けてみよう」
このネガティブなんだかポジティブなんだか判然としない態度こそ、長期的に見ればメンタルを守り、成果をもたらす中庸の発想なのだと思います。
自己否定は成功の第一歩
さてさて。ここまでご紹介したのはこの本の魅力のほんの一部です。
ただ、すべてにおいて共通して言えることは、「痛みをともなって変化するための心理術」が数多く散りばめられていること。
筆者はわれわれに先行して、自己否定の大切さを身をもって示してくれているのです。
これにより、本書はよくある耳障りのいい成功法則などではなく、筆者が血を流して体得した知恵を惜しみなく披露してくれていると感じます。
同時に、この点にこそ本書の魅力と実行の難しさとが同居しています。
たとえば、先述した「すべてのローンは損失が出てもすべて解消する」といった内容。これを読んでどれほどの人間が理解した上で実行できるかといえば、実際はほんのわずかでしょう。
つまり、成功とは目の前に示された事実の解釈と実行の結果にすぎないわけですね。
だからこそ、自身の否を認めた上で行動を変化させるプロセスが、成功につながることがよくわかります。
自己否定を繰り返し、失敗を重ねながら気づきを深める。
その継続により、人格的にも驚くほどの成長を遂げた与沢氏。彼のやり方をロールモデルに、わたしも変化を遂げていきたいと思います。
あなたもご興味があれば、ぜひご一読を。
それではまた。
たろけんでした!