驚愕の感染率。患者90%超、スタッフは25%!
たろけんです。
私の勤務する病棟で新型コロナウィルスによるクラスターが発生してから、2ヶ月が経過しました。
現在はなんとか終息宣言までこぎつけたものの、その傷跡は決して浅いものではありませんでした。
実は、クラスターの発生から終息に至る過程において、一般病院と精神科では明確に異なる点があります。
それでは、その違いは一体、どんな点に現れてくるのでしょうか?
そして、終息に向けてどんな点に注力すべきなのでしょうか。
今回はそんな視点でお送りしたいと思います。
感染対策が困難を極める、精神科の特殊性
今年3月末。私は以下のネットニュースを見て、以前から感じていた不安が的中したことを痛感しました。
これは、兵庫県にある精神科の単科病院において200名規模のクラスターが発生したという記事です。
そこには、強い感染力を持ったウィルスが精神科に持ち込まれると、どんな悲劇が起きるのかが実に生々しく記されていました。
ここにも書かれている通り、わたしの病院においても一人目の感染者が発覚してから大半の患者さんが罹患するまであっという間のできごとでした。
PCR検査を実施するたび、毎日10名前後の患者さんの感染がわかるといった具合です。
ほとんどの病室が相部屋のため、感染していない患者さんを感染者のいない部屋に避難させるべく、毎日何度もベッド移動が繰り返されました。
とはいえ、これは容易に想像できることですが、感染者がひとり発生した部屋では、いま感染していない方もすでに潜伏期に入っている可能性が高いわけです。
そのため、苦労して部屋移動と感染対策を継続したにも関わらず、最終的には90%を超える患者さんが新型コロナウィルスに感染することになりました。
それではなぜ、精神科ではここまで爆発的に感染が広がってしまうのでしょう?
それには、以下のような精神科ならではの特殊な事情があります。
- 重度の認知症の患者さんの場合、コロナウィルスの存在自体を知らない
- マスクを嫌がり、何度つけ直しても外してしまう
- 手洗いうがいの習慣がない患者さんが多い
- 自身の感染を知らされても、おかまいなしに動き回ってしまう
- 咳エチケットを知らない方が、盛大にくしゃみや咳をする
- ハンドソープや消毒用アルコールを飲んでしまうことがあるため、手洗い場に置けない
認知症や精神遅滞などの特徴を持つ患者さんの場合、通常のお願いや禁止事項はなかなか耳に入りません。
そのため、残念ながらその活動範囲がそのまま感染拡大のきっかけとなってしまうのです。
クラスター発生直後、ほぼ全エリアがレッドゾーンに。
ダイヤモンド・プリンセス号で一気に知られた言葉に感染症対策の「ゾーニング」という言葉があります。
ウィルス感染の危険性が高い順に「レッドゾーン(汚染区域)」「イエローゾーン(中間区域)」「グリーンゾーン(清潔区域)」などとエリア分けを行い、区画内での行動を厳守するというメソッドです。
通常、レッドゾーンの設定はできるだけ狭い範囲にすることが奨励されています。なぜなら、設定を広くすると、消毒・清掃の負担が一気に増えてしまうためです。
また、ナースステーションはグリーンゾーン(清潔区域)にするのが通常です。これは、医療従事者が常に感染リスクの高い場所にいることで多大なストレスを受けるため。
ところが、先述した事情により、わたしの病棟ではクラスター発生から早々に、ほぼ全エリアがレッドゾーンに指定されることになりました。ナースステーション内はもちろん、職員用トイレもです。
かろうじてイエローゾーン(中間区域)に指定されたのが、病棟出入り口扉前のわずかな空間。そこですべてのPPEを脱いで廃棄し、休憩を取ったり帰宅したりするわけです。
そして、唯一のグリーンゾーンとなったのが、夜勤時に仮眠室としても使われる、職員の休憩室でした。
この過酷なまでのゾーニングによって何が起きたかといえば、スタッフのストレス度が跳ね上がりました。
なにしろ、出勤時に防護具をフル装備でつけた後は、昼休みのわずか1時間しかそれを脱ぐ時間がないのです。水分補給時でさえPPEを脱ぐ必要があるため、ほとんど休憩が取れなくなりました。
夜勤などは更に悲惨です。夕飯の30分と仮眠休憩の3時間をのぞく14時間もの間、防護具をつけっぱなしのまま汗だくで勤務することになったのです。
なによりまず、スタッフ自身の感染を避ける
そこまで感染対策に気をつけていても、なすすべもない程のスピードで感染が広がっていきます。わたしも感染拡大の初期には本当に頭を抱えました。
患者さんやスタッフが手を触れる場所を数時間おきにアルコール除菌して回るものの、咳やくしゃみを手で受けた患者さんが手すりをべったりと触りながら歩いてくる。。
その上、当院は築年数が古く、施設のすべてが老朽化しています。
天井の一部ははがれて雨漏りがし、使用禁止の便器も多数。ポータブルトイレなどを洗浄する、専用の汚物処理槽すらないという野戦病院のようなありさま。。
通常であれば厳しく管理される「清潔エリア」「不潔エリア」の区別もままならない状態なのです。そんな状況で上記のような光景が繰り返され、感染者が急増するのを見ていると、絶望的な気持ちにもなってきます。
連日、SPO2(血中酸素濃度)の急低下した患者さんがグッタリとして総合病院に緊急搬送されていきます。そんな様子を見ながら、マスクをつけることもしない同室者が多数いる。
あぁ。。一体どうしたら。。。!?
そんな時、医療グループの本部から送り込まれてきた対策チームのスタッフにこんなアドバイスを受けました。
「この状況では、患者さんの間に感染が広がってしまうのは避けられません。患者さんの重症化を防ぐためにも、スタッフは自身の感染対策に尽力してください。」
これはある意味、大きな発想の転換になりました。
感染拡大を必死に食い止めようとしても、それを実現する条件が整っていないことには仕方がありません。
変えられない条件を変えようとするより、自らの守備範囲を徹底して守る。
結局はこれが最短コースとなるのです。
事実、この時にはすでに全スタッフの4分の1にあたる5名のスタッフが感染し、2週間もの長期離脱を余儀なくされていました。
これがもっと進んでしまえば、残りのスタッフも疲弊し、いつかは感染することになります。
そうなればもはや、患者さんの看護どころの話ではありません。
そこで、病棟の消毒頻度を上げるよりも自分たちの感染対策をより丁寧に、確実におこなうことにシフトしていったのです。
新型コロナウィルス封じ込めのための、病棟ルーティン
具体的には、以下のような内容になります。
- 個人防護具のつけ外しを毎回マニュアル通り丁寧におこなう。
- 全病室の入り口に、使い捨て手袋とアルコールスプレーを設置
- 病棟から出るゴミはすべて感染用ゴミ袋に入れ、専用のダンボール箱で密封処理。
- 病棟から他部署宛ての書類は、PCにスキャニングして閲覧してもらう
- 夜勤時の夕飯は休憩室でひとりずつ食べる
- 持ち込んだ私物のアルコール除菌(特にスマホ!!!)
- 食事前の手洗い&アルコールスプレーの徹底
- 顔は絶対に手でさわらない
- ナースステーション内の飲食はおこなわない
列挙してみるとかなり多く見えますが、基本的には「付着したウィルスの除去」と、「ウィルス拡散の抑制」をひと作業ごとに徹底する。それだけです😊
これらのマニュアルを管理者が迅速に整理し、提示してくれたおかげで、カオスと化した病棟にひとつの道筋ができました。
残念ながら患者さんの90%以上が新型ウィルスに感染する結果となりましたが、スタッフはひとりひとりが上記の内容を徹底していった結果、75%が無感染のまま2ヶ月間を乗り切ったのです。
彼らが感染から回復される方々の看病に尽力できたことは、言うまでもありません✨
今回はこのあたりで。
たろけんでした😊